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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)63号 判決

原告主張の事実は、すべて当事者間に争いがなく、右事実によると、原告の主張は理由があるものということができる。

よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、これを認容することとする。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、第四六一、四二六号特許(発明の名称「電着銅の製造方法」、昭和三六年九月二八日特許出願、昭和四〇年一二月一〇日登録)の特許権者であるところ、被告は、原告を被請求人として、昭和四四年三月二七日、本件特許を無効にすべき旨の審判の請求をし、昭和四四年審判第一、九六〇号事件として審理されたが、昭和四五年五月六日、「本件特許を無効にする。」旨の審決があり、その謄本は、同年六月三日原告に送達された。

二 本件特許発明の要旨

チタン、ジルコニウムまたはそれらを主体とした合金またはチタン、ジルコニウムまたはそれらを主体とした合金を他の金属と結合したものを電着基体とし、銅を電着して剥離することを特徴とする電着銅の製造方法。

三 本件審決理由の要点

本件特許発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、本件特許の出願日前、米国内において頒布された刊行物である米国特許第二、六四六、三九六号明細書(一九五三年七月二一日特許)(以下「引用例」という。)には、チタンまたはジルコニウムあるいはその合金よりなる陰極の表面を清浄化し(実施例一では一〇%弗化水素酸で浄化し、表面を磨いた後にアルカリおよび酸で洗つている。)、次いで、空気中において該表面を不動態化し(同じく実施例一では一五分間空気中で乾燥している。)、この表面に金属塩溶液から金属を析出させ、これを剥離することにより薄い金属シートを得るという発明が記載され、本件特許発明の要旨と引用例記載の事項を比較すると、ともにチタンまたはジルコニウムあるいはその合金よりなる電着基体(陰極)を用いて金属塩溶液(硫酸酸性の硫酸銅水溶液)から基体表面に金属(銅)を電着させ、これを剥離するものであるが、本件特許発明においては電着前に基体表面に対し何らの処理をしないものであるに対し、引用例においては、基体表面を清浄化し、次いで空気にさらして不動態化するという予備処理を行う点で相違があり、右予備処理を除いて両者は特に異なるところはない。さらに、上記の相違点について審究するに、本件特許発明においては、基体表面に自然酸化により生成した酸化被膜が存在するままの状態で金属をその上に析出せしめているが、引用例においては、清浄化処理によつて自然に生成した酸化被膜を除き、空気中にさらすことによつて不動態化処理を行い、被膜をつけたものの上に電着を行うものであり、自然酸化によるか、あるいは人為的によるかの差異はあるにしても、表面が酸化被膜で覆われたチタンまたはジルコニウムあるいはその合金よりなる電着基体上に金属を析出せしめる点では全く同一のものである。しかして、電着基体として使用される上記金属は、空気にさらされると、その表面が自然酸化されて、きわめて安定な薄い酸化被膜で保護されることは周知であり、本件特許発明で用いられる電着基体も前記の安定な薄い酸化被膜で覆われたものであることは明らかであるから、引用例の電着基体と同様に、その表面が不動態化されているものとみられ、本件特許発明の明細書に記載された範囲内では、引用例における清浄化処理後に不動態化された電着基体と比べて、その作用効果上格段の差異が存在するものと認めることはできず、結局、本件特許発明は、その表面が不動態化された電着基体によつて薄い電着金属シートを製造しうるという事実を開示している引用例に基づいて容易に発明をすることができたものと認めざるをえない。したがつて、本件特許発明は、特許法第三九条第二項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第一二三条第一項第一号の規定により、無効とすべきものである。

四 本件審決を取り消すべき事由

引用例が本件特許の出願日前米国内において頒布された刊行物であること、ならびに引用例の記載内容ならびに本件特許発明と引用例との一致点および相違点がいずれも本件審決認定のとおりであることは認めるが、本件審決は、本件特許発明と引用例との相違を認めながら、右相違点の判断に当たり、引用例には本件特許発明の技術思想が何ら開示されておらず、また、その作用効果において両者格段の差異がある点を看過し、ひいて、本件特許発明をもつて引用例から容易に発明をすることができるとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 本件特許発明は、引用例とは異なり、電着基体として用いる極板に予備的処理を施すことがない。引用例には、電着前に基体の表面を清浄化することが必要な条件として具体的かつ詳細に記載され(引用例第一欄三一~三六行、第二欄一一~一九行参照)、これらの記載によると、引用例においては、銅のような金属を電着させるための電着基体は、空気中での単純な露出により形成されていた酸化皮膜を一〇%弗化水素酸で洗い落し、表面を微細な金剛砂および鉄丹で研磨し、次いで、これをアルカリ性洗剤で洗浄し、さらに二%硫酸で洗浄した後に改めて一五分間空気中にさらすという数次の工程を経て酸化皮膜を形成(不動態化)させるべきことが新規な技術として開示されており、これは単純な空気中における露出により形成された酸化皮膜で覆われた状態では、電着基体として不適当であるとの技術的前提に立つていることが明らかである。これに対し、本件特許発明においては、基体表面に上記のような数次の工程による面倒な清浄化等の予備的処理を全く施すことがなく、表面が自然酸化されたチタン・ジルコン等の金属をそのまま電着基体として用いることにより良好な銅を得ることができるとの技術を開示したものであり、このような技術思想は引用例からとうてい予測することはできないものである。

2 引用例においては、予備的処理を施した結果、電着させた銅の剥離は困難であるが、本件特許発明においては、予備的処理を施さないまま、自然に生成させた酸化皮膜に銅を電着させるものであるから、電着後の銅の剥離が容易である。また、本件特許発明においては、前述のとおり、引用例において必要とされる電着基体の表面の数工程の予備処理、ことに毒性および腐蝕性を有し取扱いが困難な弗化水素酸を用いるという操作上きわめて困難な予備処理を排除できることにより、予備処理のための物的設備や労力を全く必要とせず、そのための時間的損失もないというすぐれた効果を奏しうるものである。本件審決はこの点を全く看過し、本件特許発明は引用例と作用効果上格段の差異がないとし、本件特許発明をもつて引用例から容易に推考しうる程度のものであるとの誤つた判断をしたものである。

被告の答弁

被告訴訟代理人は、本訴請求原因に対する答弁として、原告の主張事実はすべて認める、と述べた。

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